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トレジャリー(財務)およびファイナンスにおけるイノベーションとトレンド
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Kyriba のエキスパートによる 2025 年へのインサイト
2025 年、財務を取り巻く環境は大きな変革期を迎えます。これを促進するのは、人工知能 (AI) の進歩、CFO の役割の進化、プラットフォームの統合、データ管理、そしてグローバル市場の不確実性です。
Deloitte 2024 Global Treasury Survey 調査レポートで述べられているとおり、トレジャリー機能は戦略性がますます高まっており、それがトレジャリーの大きな変革につながる、と Kyriba のエキスパートは予想しています。CFO たちにとって、トレジャリー部門における最優先事項は、依然として流動性リスク管理の強化です。昨今の世界的な市場イベントやボラティリティの高い金利環境を受けて、その注力度はさらに高まっています。これは Kyriba のエキスパートの予想とも一致しています。Kyriba のエキスパートは、AI 統合によって促進されるリアルタイムのリスク評価や戦略策定の強化が、今後も続くだろうと予想しています。
さらにこの調査レポートは、環境、社会、ガバナンス (ESG) への取り組みの重要性が高まっていることを浮き彫りにしています。回答者の 64% が、ESG は重要な課題であると回答しています。この傾向については当社も、進化する CFO の役割と ESG 原則の統合に関する議論の中で触れています。キャッシュ文化と資本配分戦略の推進に伴い、CFO に付加価値を与えるパートナーとしての財務担当者の戦略的役割もまた強調されています。こうした戦略的な連携は、財務効率を最大化し、組織の成長を促すために不可欠であり、企業がコロナ禍以降の複雑な環境の舵取りを行っていく上で優先事項として支持されています。
Kyriba のエキスパートが 2025 年に注目する 6 つのトレンドは次のとおりです。
M&A の機会: 組織は、新しい関税のような経済的変化に対応するため、高い企業の流動性を生かして合併・買収 (M&A) を利用する可能性があります。
グローバル市場の不確実性: グローバル市場の不確実性を乗り切るには、プロアクティブな戦略を打つこと、そして国際取引の力学を知ることが大事です。
トレジャリーにおける AI 活用: AI は財務業務に革命的な変化をもたらしています。AI 統合により、財務リスクのモニタリング、分析、および管理の能力が、かつてないほど高まっています。
CFO の今後の姿: データリテラシー、技術的な洞察力、グローバルな認識の必要性から、CFO の役割は、従来の財務上の監督から戦略的なビジネスパートナーシップへと進化しつつあります。
ポイントソリューションを超えて: AI のパワーを十分に生かし、進化し続ける事業ニーズに適応するには、プラットフォームの相互運用性とスケーラビリティの確保が不可欠です。
良いデータの確保: データプライバシーを確保し、質の高いデータを顧客に提供することは、十分な情報に基づく財務判断を行う上で極めて重要です。
流動性の向上により M&A の機会が急増
Kyriba の独自の分析によると、現在の環境は企業の手元流動性が顕著で、アメリカ企業では総収益 16 兆ドルのうち、手元流動性は現金 3.5 兆ドル、つまり流動比率は 20% と、コロナ前の 2021 年以来最高の水準となっています。それにも関らず、M&A の件数は総取引数で 2,000 件下回っており、これは企業が「様子見」姿勢であることを示唆しています。
しかし、2025 年は、関税によって企業戦略が大きくシフトする可能性があり、そのため M&A 活動に変化が見られる可能性があります。Kyriba の CEO である Melissa Di Donato は、「流動性が高まればディールも増える」と言い、M&A の増加を予想しています。こうした予測不能な環境にはチャンスもあれば課題もあるということです。
最近発表されたオムニコムと IPG の合併や、日産とホンダの間で続いている協議からも明らかなように、すでに M&A の波が来る兆候が見え始めています。こうした大企業の動向は、経済的なグローバル市場の不確実性を切り抜け、市場において競争優位性を高めるために、企業が戦略的パートナーシップを生かそうとしていることを示しています。
グローバル市場の不確実性
グローバル市場の不確実性を乗り切るには、プロアクティブな戦略を打つこと、そして国際取引の力学に精通することが大事です。地政学的な緊張が高まるにつれ、組織はグローバルなサプライチェーンが混乱に陥る可能性に備える必要があります。バリューエンジニアリング・ディレクター Dory Malouf は、関税と地政学的要因が国際取引に及ぼす影響について触れ、「北米のサプライチェーンの統合強化は、以前の関税ラウンドよりもさらに複雑な実務上の課題を表している。」と述べて、企業が政策変更に適応する必要があることを強調しました。
FX Solutions & Advisory Services のシニア・ヴァイス・プレジデントである Andy Gage は、通貨のボラティリティがピークに達した 2016 年から 2020 年の教訓について注意喚起しています。「我々はここ 30 年で最大のボラティリティ量を市場において経験しました。」と同氏は述べています。企業は、今後もこのような大変動がありうると想定して、堅牢かつ適応力のある戦略を立てておく必要があります。
トレジャリーおよびセキュリティにおける AI の活用
AI は、ダイナミックなモニタリングと予測分析を可能にし、トレジャリーにおけるリスク管理に革命的な変化をもたらしています。チーフ AI オフィサー Morne Rossouw は、トレジャリー業務における著しい進歩として、リアルタイムでのリスク評価へのシフトを挙げています。膨大なデータセットを継続的に分析できる AI の能力は、従来型のモデルでは見過ごしてしまうようなリスクを特定するのに役立ちます。これは、今日の変動の激しい市場環境において極めて重要です。
「AI 主導のシナリオ・モデリングにより、当社の戦略立案へのアプローチは大きく変化し、複数の経済シナリオ を極めて正確かつ綿密にシミュレートすることができるようになりました。」- Morne Rossouw
さらに、RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション) やブロックチェーンといった新技術と AI の統合によって、特にクロスボーダー取引や規制関連業務において、安全性と透明性が高まります。
2025 年は、Rossouw が予測したとおり、AI エージェントがリスク管理、キャッシュフローの最適化、そしてコンプライアンスの徹底においてトレジャリー業務をガイドするようになり、AI がより身近でわかりやすいものになると期待されています。こうした進化に伴い、AI の能力と組織の優先事項や倫理基準をすり合わせることに、あらためて注力する必要が出てくるでしょう。
CFO の今後の姿
CFO は、財務面を監督するという従来の役割を超えて、イノベーションや成長を牽引する戦略的なビジネスパートナーへと進化しつつあります。プリンシパル・バリュー・エンジニア Martin Hoad は、特にデータが重要な財務資産になる中で、今後の CFO にとってのデータリテラシーの重要性を力説しています。ESG の概念を理解し、複雑な規制環境を切り抜けられるかどうかが、死活問題となります。
「現在の地政学上の不確実性を考えると、規制や税制、為替管理を理解するのは至難の業であり、ますます厳しくなっています。」- Martin Hoad
CFO は、意思決定の質を向上させ、財務戦略と全体的な事業目標の整合をはかるべく、テクノロジーとデータ分析を活用しています。
Kyriba の CFO である Adam Drew は、企業の成長と収益性を促進するには、テクノロジーの統合が必要不可欠であると強調しています。この変化は、デジタル変革 (DX)、リアルタイムの財務インサイト、サステナブルファイナンスといったトレンドに裏付けられています。
「テクノロジーの統合はもはや選択肢ではありません。成長と収益のための必須要件です。」- Adam Drew
もはやポイントごとのソリューションでは対応しきれない
プラットフォームの相互運用性、そして他の財務システム・ツールとの統合は、財務オペレーションの効率と戦略的機動性を高めるために極めて重要です。グローバル・プリセールス&ストラテジーのマネージャーである Yussuf Ali は、相互運用性は、データの可能性を最大限に引き出し、AI が正確なリスク評価や最適化戦略を実施するのに不可欠であると述べています。
「AI 主導の世界では、相互運用性こそが、より賢く、より速く、より戦略的なトレジャリー業務を支えるバックボーンとなります。」- Yussuf Ali
AI は、膨大かつ多様なデータセットを駆使して、正確なインサイトおよび予測を提供します。シームレスな統合により、ERP や銀行ポータル、リスク管理ツールのようなシステム間をデータが自由に流れ、財務健全性を一元的な視点からリアルタイムで把握することができます。
こうしたコネクティビティにより、サイロは取り除かれ、意思決定力が強化され、AI が正確なリスク評価と最適化戦略を実施することができます。また、相互運用性により、機動性が高まり、組織が新しいツール、規制、市場変化に迅速に適応できるようになります。つまり、AI 主導の世界では、相互運用性こそが、より賢く、より速く、より戦略的な財務業務を支えるバックボーンとなります。
また、プラットフォームは、進化を続けるビジネスニーズや市場環境に対応し長期的な実行可能性や感応性を保証するために、拡張可能かつ柔軟でなければなりません。北欧プリセールスのマネージャーである Dominique Mouilah は、TCO (総保有コスト) を減らし、機動性を高めるには、拡張可能かつ柔軟なプラットフォームが必要不可欠であると述べています。統合的なソリューションによって一貫したデータの枠組み、災害復旧、拡張性が実現でき、これによって組織は、絶えず変化する要件に効率的に対処することができます。
良いデータの確保
デジタル時代の今日において、有効な財務上の意思決定にはデータ品質とセキュリティの確保が欠かせません。高品質のデータがあれば、正確な予測と戦略立案が可能になります。プリンシパル・ビジネス・バリュー・コンサルタントである Shruti Gupta は、正確なデータ入力の重要性を指摘しています。グローバル・イネーブルメント責任者である Bob Stark は、詐欺やネット犯罪から組織を保護するための強固なデータプライバシー対策の必要性を強調しています。
「無意味なデータを入力すると、無意味な結果が返される」というのはよく知られた事実です。財務上の意思決定の価値は、決定の根拠として用いられた入力データの質で決まります。」- Shruti Gupta
「当社の 2025 年の予想では、情報セキュリティ部門、IT 部門、そして財務部門は、支払データおよびワークフローの保護を優先事項とするでしょう。」- Bob Stark
信頼できるリアルタイムデータを担当者が手にすることにより、キャッシュフロー管理と流動性パフォーマンスが向上し、それが戦略的な意思決定を支えます。
まとめ
2025 年、テクノロジーとビジネス力学が牽引役となり、財務環境は変革の時を迎えます。AI によってリスク管理の在り方は根本から変わり、財務担当者はリアルタイムのインサイトと予測分析力を獲得します。CFO の役割は、デジタル変革を活用して成長を促進する戦略的パートナーへと進化します。
拡張可能な統合プラットフォームへの転換は、機動性を保持し、シームレスなデータフローとリアルタイムのインサイトを可能にするのに必要不可欠です。インターネット上の脅威が高まるにつれ、データ品質とセキュリティの保証は、最重要項目となっています。そして、十分な情報に基づいての意思決定には、高品質のデータが欠かせません。
グローバル市場が不確実性に直面する中で、ビジネスはプロアクティブな戦略を採用するとともに、地政学的および経済的な変化を予測しなければなりません。これらの傾向と課題に向き合うことで、組織は日々複雑化する世界において、持続可能な成功とレジリエンスを実現することができます。